夢三十一夜「リラの花咲く頃」
函館もやっと春から初夏への変わり目である。北国に住む人たちにとって桜の開花を心待ちにし、そして花びらが舞い散っても何も寂しくはないのである。
やがて函館山はそのグレイ色から一斉に若緑に変わる。街路樹も若緑に、やがてツツジが咲き、真紅のライラックが咲き始める。
ライラックの花の時期になるとどうしても高校時代の淡い思いでが巡り来る。
我が母校は函館山の中腹に佇む北海道函館西高等学校である。附近は別名「つつじヶ丘」とも言われていた。
高校の体育祭の練習日であった。グランドは校舎とは少し離れた山の中腹を切り取った様な小さなグランドである。
晴れた空は突然の雨になり、生徒全員が校舎に向って山道を歩き降りている時のことである。一年後輩の女生徒が傘を翳してくれた。嬉しいやらドキドキやら。
傘の先のほうには葡萄色のライラックの花が咲き誇っていた。
翌日、女生徒の教室に傘を返しに行った。名前も聞かなかった。小柄な可愛い子だった。ただそれだけの事である。
五年前、ご婦人が私の店に来店された。「私は高校でShibataさんの一級下ですよ」ヤット思い出した。あの時の........。時々食事に寄ってくれる。
君の差す一張りの傘思ひ出し
アカシアの紫の花雨に濡れ
朝霧のミルクのやうに包まれて
リラ色の花の姿に立ち止まりそっと
香(かほり)は梅雨空の頃
世田谷の松葉通りのくちなしの
花の香りを今思い出し
夕ふ暮れの 明日に消えて 寂しさを
優しく包む 貴方が居(おり)て
君の差す一張りの傘思ひ出し
セーラー服の裾翻し
アカシアの紫の花雨に濡れ
ツツジの赤と艶やか競ひ
ひと張りの傘に肩寄せ六月の
昭和39年アカシアの紫
函館西高等学校三年生。体育祭の練習帰り大雨に見舞われ
六月の青空アカシヤ咲く |
朝霧のミルクのやうに包まれて
静かに明けるリラの咲く頃
本当に良い季節になった
海の青、緑にツツジ鮮やかに
六月の街久しく晴れて
六月の街久しく晴れて
リラ色の花の姿に立ち止まりそっと
香(かほり)は梅雨空の頃
世田谷の松葉通りのくちなしの
花の香りを今思い出し
優しく包む 貴方が居(おり)て
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